国際私法

国際私法(〔独〕Internationales Privatrecht、〔仏〕droit international privé、〔英〕private international law)は、法の牴触とその解決を研究する法学の一分野である。国際的なビジネスを展開する上できわめて重要な意味を持つ。

国際私法は、当時ヨーロッパの商業の中心であったルネサンス期の北イタリアで生まれている(ちなみに複式簿記もここで生まれている)。その中心人物は、註解学派のバルトルスやバルドゥスであった。これに、フランス学派、オランダ学派などにより一定の改良が加えられ、当時近代資本主義の推進期にあった19世紀ドイツのサヴィニーにより、大きな変更を加えられた(コペルニクス的転回)。現在の国際私法は基本的にサヴィニーの枠組によるものであるため、サヴィニーは近代国際私法学の父といわれる。

現在の「国際私法」にあたる用語を最初に用いたのは、ジョセフ・ストーリ(Joseph Story)であるとされている。1835年にストーリは、次のように、「private international law」という用語が適切であると述べている:

The jurisprudence, then, arising from the conflict of the laws of different nations, in their actual application to modern commerce and intercourse, is a most interesting and important branch of law [...] This branch of public law may be fitly denominated private international law, since it is chiefly seen and felt in its application to the common business of private persons, and rarely rises to the dignity of national negotiations, or national controversies. (Commentaries, § 9)

この用語は、1841年にシェフナー(Schaeffner)によりドイツに輸入されたが、このときに順序が入れ替わり、「Internationales Privatrecht」となった。フランスでは、1843年にフェリクス(Foelix)が輸入したとされるが、こちらの「droit international privé」は、原語の「private international law」の語順に忠実である。

日本にはもともとそれに相当する概念がなく、「国際私法」という用語は明治期に生み出されたとされる(語の順序はドイツ式のものを踏襲している)。穂積陳重『法窓夜話』によれば、もともと「公法私条」(ウィリアム・マーティン『万国公法』)、「万国私権通法」(西周)、「列国庶民私法」(津田真道『泰西国法論』)、「万国私法」(若山儀一)などの訳語が用いられていた。帝国大学でははじめ「列国交際私法」としていたが、明治14年に「国際私法」と改め、これにより「国際私法」が定着したという。

国際私法は、伝統的には「各種の渉外的私法関係を規律する私法秩序を指定する法則の一体」(江川英文『国際私法』〔改訂版〕)と定義される。しかし、適用対象を渉外的な法律関係に限定している点については、(1)そもそも生活関係が渉外的なものかどうかを劃定することは不可能である、(2)内国的とされるような生活関係であっても、国際私法的な考慮が必要な場合もあるなどと批判される。また、適用対象を私法的な法律関係に限定している点についても、近年では公法の国際的な適用が問題となっており、妥当でないと批判される。

そこで、「国際社会の中に複数の法秩序が地域的に併存していることを前提として、そこで生起する法律関係に適用すべき内外いずれかの法律を決定する法」(澤木敬郎・道垣内正人『国際私法入門』〔第4版再訂版〕)などの定義が有力に主張されている。

なお、国際私法自体(国際私法が対象とする法律関係ではなく)が公法か私法かという論争もある。公法説、私法説のほか、公法・私法の分類は事項規範(Sachnormen)に関するものであり、国際私法は適用規範(Rechtsanwendungsnormen)であって、公法でも私法でもないとする説がある。

我が国における国際私法の成文法源と考えられているものは、次の通りである:

  • 法の適用に関する通則法
  • 遺言の方式の準拠法に関する法律
  • 扶養義務の準拠法に関する法律
  • 手形法88条~94条
  • 小切手法76条~81条