アークトゥス・コントラーリウス
アークトゥス・コントラーリウスは、「反対の行為」を意味するラテン語である。母音の長短を無視して、「アクトゥス・コントラリウス」とも表記される。特に、立法行為に関して、ある行為を同じ形式の行為によって置き換える場合に、この概念は使用される。
例えば、ある国の国内法として法律を制定するには、その国の憲法によって規定されている法律制定手続を践む必要がある。その後、当該法律を改正・廃止する必要がある場合には、まったく同じ法律制定手続によって、その法律を改正する法律を制定する。このまったく同じ手続によって行われ、内容的には反対となる行為を、アークトゥス・コントラーリウスという。
したがって、アクトゥス・コントラーリウスというものを考える上では、法体系における法形式の序列というものが、きわめて重要な意味を持ってくる。例えば、日本においては「条約は法律よりも上位の法形式である」というのが通説・実務である。したがって、条約により定立された法規範を法律によって覆すことはできない。ところが、ドイツにおいては、「条約は法律と同位の法形式である」というのが通説・実務であるので、条約により定立された法規範を法律によって覆すことができるわけである。
EUにおいても、原則として以上の考え方が成り立っている。すなわち、共同体規則は原則として共同体規則によって改廃されなければならず、指令は原則として反対の指令によって改廃されねばならない、ということである。もっとも、欧州司法裁判所の裁判により無効とされた場合などは別である。
また、設立条約を改正・廃止するには、これを改正・廃止する条約を締結して、締約国によって批准する必要がある。したがって、改正内容の大小にかかわらず、条約を改正する場合には、原則として全加盟国が参加する大規模な改正手続(交渉・調印・批准)が必要となるわけである。いうまでもなくこれには厖大な下準備や時間が必要になり、欧州統合を遅らせる一因となっていた。これを改めるべく、欧州憲法条約においては、通常の改正手続に加えて、略式の改正手続を導入し、一定の法規範については欧州理事会にその改正を授権することになっている(444条・445条)。