アキ・コミュノテール

Acquis communautaire

アキ・コミュノテール(〔仏〕acquis communautaire)は、現状における欧州諸共同体(及び欧州連合)の法令及び判例を総称する言葉。直訳すれば「共同体の既得物」。

英語には相当する概念が存在しないため、英文においても、フランス語の「acquis communautaire」を条約等にそのまま用いている。

ドイツ語には「ゲマインシャフトリッヒャー・ベジッツシュタント(gemeinschaftlicher Besitzstand)」という訳語が存在し、条約正文や判決正文などではこちらが使用されるが、論文等では、フランス語概念をそのまま使用することが好まれる傾向にある。

アキ・コミュノテール概念の実益

アキ・コミュノテールという概念の実益は、次の二点にある:

  1. 欧州連合(EU)の「統一的機構枠組」(欧州理事会、欧州議会、欧州委員会、閣僚理事会等を指している)に、アキ・コミュノテールの保持及び発展の義務が課せられること(欧州連合条約3条1項)。
  2. 中東欧諸国の欧州連合(EU)への加盟にあたっては、アキ・コミュノテールの全面的な受け入れが必要とされたこと(コペンハーゲン基準)。

アキ・コミュノテールの内容

アキ・コミュノテールは、「共同体の(communautaire)」という修飾辞がついているが、これは沿革的な理由によるもので、現在では、欧州連合の既得権利義務も含まれていると考えて差し支えない。

アキ・コミュノテールの内容には、一次法が含まれることに異論はない。これまでに発効したすべての共同体条約、マーストリヒト条約、アムステルダム条約、ニース条約その他の基本条約の原則・内容・政治的目標が含まれる。

また、アキ・コミュノテールには、厖大な量の二次法も含まれると考えられている。すなわち、共同体規則、共同体指令、共同体決定その他の二次的法源(一次法源の授権に基づく共同体機関の立法)は、すべて含まれる。その他、欧州理事会等が発する政治宣言や、閣僚理事会における加盟国間の取り極め等も含まれると考えられる。

さらに、一次法源および二次法源の解釈というべき、欧州司法裁判所の判例も含まれると考えられている。

要するに、アキ・コミュノテールを保持するとは、欧州連合における既得の権利義務にいかなる変動ももたらさないということであり、この観点から、アキ・コミュノテールとは、EU法上の権利義務に法的(de iure)・事実的(de facto)に影響を与えうる一切合財のものであると考えればよい。